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未だ騒がしいニュースに耳を傾けていると、僅かな機械音と共に扉が開き聞き慣れた足音が近づいてきた。その音に、良かったとホッと息を吐いた。 「お帰りなさいスザクさん、お疲れ様でした」 「ただいま、ナナリー」 「おかえりなさいませ、スザク様」 「ただいま、咲世子さん」 スザクはナナリーの向かい側に座ると担いでいたリュックを床においた。 ゴトリと硬い音が床を鳴らす。 テレビでは銀行テロの特番が組まれており、今は本来流れるはずのないゼロ達のやり取りが映し出されていた。カメラの位置から、黒の騎士団側で撮影した映像が流れたものだと理解る。報道規制したところで、すでに情報はネットを通じ世界に流れてしまった。だから隠蔽するのは悪手だと判断し、どうせ知られたのなら、黒の騎士団の主力である紅蓮と無頼2騎の合計3騎を回収し、黒の騎士団はその戦力を大幅に減少させたこと、そして団員数名を捕縛したという方向に話題を持って行った。ゼロも偽ゼロも逃がしてしまったが、彼らを捕まえるのも時間の問題だと軍は会見で話している。 「大丈夫かなルルーシュ・・・」 スザクは咲世子が入れたお茶を口にしながら不安げに呟いた。 「大丈夫でございます。あの影武者が逃走した後、逃げた団員の後をつけたのですが、彼らは黒の騎士団のアジトと思われる場所へ入りました。そのしばらく後に、ルルーシュ様もまたゼロとしてそこに入りましたので」 私は、あのゼロが偽物だとすぐわかりましたので。 咲世子はさも当たり前にように言った。 「え!?」 どういうこと!?と、スザクは目を丸くした。 「スザクさん、咲世子さんは忍者なんですよ?」 「へ!?忍者!?」 「隠密でございますナナリー様」 「へ!?隠密!?」 「スザクさん、仮にも元皇族である私たち兄妹の世話係が、ただのメイドだと思いましたか?万が一の時には私たちを守れるSPとしての能力を持っているからこそ、咲世子さんはここに居るんですよ?」 「ええ!?そ、そうなんですか!?」 「はい、おそらくは・・・」 アッシュフォードの面接は不可思議なものだった。 募集されたのは日本人だけ。 メイドとしての能力と、障害を持つ少女の介助ができるかの試験があったのはナナリーのことを考えれば当然で、体力測定もナナリーの介助に耐えられる体力があるか判断するためには大事だと理解るのだが。 アッシュフォードに仕える屈強な男たち10人相手に勝つことも条件だった。 それを見て皆は「やはりおかしいと思ったんだ、日本人をいたぶるのが目的だったんだ」と暗い顔をしたが、咲世子はさっさと10人倒してしまった。 そしてその瞬間に、全てを見ていたミレイが「はい、採用っ!合格!文句なしの満点よ!よろしくね、篠崎咲世子さん!」と言ってきたので、嫌がらせでも何でも無く、本当に試験だったのだと全員が声を無くしたが、咲世子一人は平然とした顔で「ありがとうございます。誠心誠意お仕えいたします」と頭を下げた。その態度も良しと「大丈夫よ!お二人は、戦前から日本にいるブリタニア人なの」と笑っていた。 二人は咲世子をイレブンではなく日本人と呼び、差別などしない。それどころか日本を取り戻すためために命を賭けている。・・・ありがとうございますミレイ様このお二人に仕える事こそ私の天職です! 「そうなんですか・・・ではあの場所に咲世子さんも?」 「はい、おりました」 「全然気づかなかったよ・・・」 気配には敏い方なので、スザクは心底落ち込んだ表情で言った 「あ、お二人ともお兄様が・・・」 足音に気がついたナナリーが可愛らしく人差し指を口元に持って行くと、二人はピタリと話をやめた。静かになった室内には、緊急特番の声だけが聞こえていた。 |